
「学びと、本棚」は、デザイナーや映画監督、アーティスト、漫画家など創作の最前線で活躍するみなさんに、自身の人生のなかで“学び”につながった1冊を紹介してもらうコーナーです。お守りのように大切にしたいもの、教訓にしたいものなど、その人それぞれのエピソードをうかがいます。
今回ご登場いただくのは、デザイナーの遠山夏未さんです。2026年8月9日まで21_21 DESIGN SIGHTで開催されている企画展「スープはいのち」の展覧会ディレクターである遠山さん。大学卒業制作からずっと「スープ」について考えていたり、イッセイ ミヤケでは衣服のデザインに参加していたりと、衣食住にまつわる仕事が多いという遠山さんの1冊とは?
■「学び」につながった1冊
『Skin』(高木由利子、ひびのこづえ/扶桑社)
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594024741
写真家・高木由利子さんが、アーティスト・ひびのこづえさんによる、コマーシャルや舞台など一度限りのために制作されたコスチュームを携え、ケニア、トルコ、インド、タイへと旅した一冊。各地の風景や人々に纏われたコスチュームは、その土地の文化や環境と交わりながら新たな姿へと再構成され、写真作品としてまとめられています。

この本に出会ったのは高校3年生のとき。現在21_21 DESIGN SIGHTで開催中の企画展「スープはいのち」で企画協力をいただいている小池一子さん(クリエイティブ・ディレクター/武蔵野美術大学名誉教授)が紹介していたことから関心を持ち、『Skin』の展示を見に行きました。
衣装を纏った人々の姿は、身体が風土や大地と溶け合い、皮膚の境界が揺らぎ、いのちそのものが立ち現れているように感じられました。作り込まれた衣装の中に、むしろ人間の根源的な姿が現れている。その体験は、「身体」を中心にものづくりを考える原点となりました。衣服を単なる外側の装いではなく、身体を取り巻く空間=身体空間の一部として捉える視点を得たことも、この本からの大きな学びのひとつです。
その後、衣食住は身体を内と外から包むものであり、その境界はなく、物質だけでなく、環境や文化、感情や他者との関係のなかでかたちづくられていくものではないかと考えるようになりました。胞衣が人間にとって最初の衣服であり、もっとも純粋な皮膚であるという考えや、羊水を食の原型と捉える視点にも、少なからず影響を受けているように思います。
この本をきっかけに小池一子さんのもとで学びたいと考え、武蔵野美術大学に進学しました。さらにその後、高木由利子さんの写真を通して三宅一生さんのもとで学びたいと思い、入社に至りました。振り返れば、人生の節目には常に高木由利子さんの写真があり、この一冊は、その後の学びや出会いの出発点となったように感じています。
■最近手がけたお仕事
現在、21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」(2026年3月27日〜8月9日)の展覧会ディレクターを務めています。あわせて作家としても参加し、インスタレーション「はじまりのスープ」、「皿儀」の2作品とレシピを出展しています。

2005年よりイッセイ ミヤケの衣服のデザインに携わる一方、衣服の領域を越えた試みとして、ISSEY MIYAKE GINZA|CUBEおよびISSEY MIYAKE KYOTO|KURAにて、「食」をテーマとした特別展示「水を味わう 水を纏う/Savor Water, Embracing Water」を企画しました。
同展では、三宅一生と親交の深い横山夫紀子氏・秋元茂氏による共著『百味菜々』を着想源に、食と身体の源である「水(昆布だし)」にフォーカスしています。柳原照弘氏のディレクションのもと、写真や「ほぐし絣」の空間構成、さらに香りや音響を組み合わせることで、水を直接味わうような身体的体験を創出しました。本展は「スープはいのち」へと連なる、思考の出発点(第0章)にあたります。
■最近、または今後学んでみたいこと
中村桂子さんの著書『人類はどこで間違えたのか 土とヒトの生命誌』をきっかけに、土を掘り下げて学びたいと考えています。また、食をめぐる営みとジェンダーの関係についても理解を深めていきたいと思っています。
■プロフィール

デザイナー。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。イッセイ ミヤケで衣服のデザインをする傍ら、「衣」と「住」は身体を外側から包み、「食」は身体を内側から包むものであると考え、最小限の食として“スープ” に着目し、身体空間をデザインする活動を始める。
著書に『ポタージュ − 野菜たっぷり家族のスープ−』(池田書店、2014 年)。21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」展覧会ディレクション。