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学びのアンカーポイント:押山清高が振り返る学びの履歴と、『ルックバック』を“展示”する挑戦(2)

アニメと展覧会に共通する「体験の個別性」

――押山さんにとって展覧会づくりは初めてだったと思いますが、普段取り組まれている平面の映像との違いから学んだことや、空間設計から今後の活動に活かせそうなことはありますか?

映画やアニメって、観る環境が人によってまちまちだと常日頃から思っているんです。スクリーンの大きさや座席の位置、音響なんかによって観え方は違ってくるし、もっと言えば映画館で観られることを想定してレイアウトを決めても、将来的には配信で観る人口のほうが多いじゃないですか。

だから小さい画面で観ることを想定してキャラクターの人物サイズを決めるかというと、すごく悩みどころの部分で。色再現にしてもすごく厳密に理想の色に近づけるために調整しますが、みんながみんなしっかりしたモニターで観るわけではないし、どこに基準を定めたらいいか正直わからない。

それでいうと、展覧会は映画以上にみんなバラバラに観るものだよなと。ストーリーやエリアに沿って一応順路はありますが、誰一人として観方が被らないと思うんですよ。会場までの行き方にしても人によってまちまちで、ロールプレイングゲームをやってるような感覚なのかなとか、普段のアニメーション制作では考えないことを意識しましたね。

この展覧会に足を運んで何を観て、どう帰っていくのかというシミュレーションを何度もできたことはとてもおもしろかったです。

会場の一角では、京本の家の廊下も再現されています
藤野と京本の2人をつないだ4コマシートも展示されています

――映画以上に、観客の個別の体験を想定しなければいけないということですね。

そうですね。あとは、展覧会の図面や使用する素材、原画を収める額を見ているだけではサイズ感とか全体の完成形があんまり想像できなくて、それはアニメーション作りと一緒だなと思いましたね。アニメーションに限らず作っている間は全貌が見えない。でも経験値があれば予測の精度を上げていける。

今回は展示物はシンプルでしたが、やはり実際の空間を演出するという意味では、アニメーション作りと大きく違いました。展示物や場所が違えば、またまったく別の方法が必要なんだろうなと感じます。それくらい、展覧会のほうが場所に依存し、観客にゆだねる要素が多いなと思いました。

会場外の廊下には、押山監督が直に描き下ろした絵もちりばめられており、細部にまで作品への愛が感じられた。このほかの絵はぜひ会場で探してみてほしい

新たな環境に身を置くことで得られる視点

――今後の活動で挑戦したいことを教えていただけますか。

今回、展覧会のラストに『ルックバック』とは関係のない9ページのオリジナル漫画を展示したんです。あれは人生2度目の漫画制作で、1度目は映画『風立ちぬ』の原画を務めて、アニメーション作りに少しくたびれたタイミングだったかで描いたんですよね。

今回も『ルックバック』をつくって、反響が大きかったからこそすごく達成感を覚えている部分があって。だからこそ、自分がマンネリしないためにもゼロからスタートできるものに挑戦したいという気持ちがありました。

新たな環境に身を置いたほうが自分が甘やかされなくて済むと思い、実は住んでいる場所も変えました。キャリアを積んでくると同業者でお互いに慰め合ったりするようになりますが、そうすると目の前の仕事がつまらなくなる気がして全然同業者がいないところへ…(笑)。

漫画は、今まで取り組んできたアニメのスキルを応用できる部分がありつつ、ストーリーテリングのトレーニングができるのがいいなと思っています。アニメは制作期間が長いので、数を打てないんです。でも、読み切り漫画みたいなものであれば、1年間で何作品も描ける。そこで学んだことを、アニメの企画を立てるときに役立てられたらいいなと。

――アニメーターのスキルは一生をかけて磨くものだという話もありましたが、押山さんが今後学んでいきたいことはありますか?

絵を描くスキルやアニメーションって、どこまで行っても正解がない世界ですよね。職能スタッフとしてのアニメーターの道だけを究めようとしている人もいますが、僕はアニメーターも続けたいが、自分で作ったキャラクターや物語も描きたい。だから、ずっと原画マンだけをしていたら、もっといろんな事を描きたいのにとなっちゃうと思うんですよね。

個人的には、ある程度アニメの分野で結果が出たんだとするならば、それとは異なる分野に飛び込んで挑戦するほうが新たな視点に気づけるかもしれないとは思っていますね。アニメーターをしながら会社経営をしているのもそのひとつで。

狭い世界にいると、周囲と比較してしまうのは人間の性です。本当は冒険者になって人類未踏の地を歩いて、この世界の不思議を感じたいのに、現実は人生の大半を机にかじりついて絵を描くことに費やしてしまっている退屈な生き方です。だから、せめて絵の中ではできるだけ身軽な気分でありたい。展示会を作るのも、漫画を描くのも、その他すべての日常のすべてが学びとなって、アニメーション作りに集約されていくんだと思っています。

■劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情
会期:2026年1月16日(金)~3月29日(日)
会場:麻布台ヒルズ ギャラリー
https://www.azabudai-hills.com/azabudaihillsgallery/sp/lookback-ex/

文:原航平 撮影:葛西亜理沙 取材・編集:石田織座(JDN)