
青木:模型を作る前のスタディとしても3Dを活用しています。私の場合、まずVectorworks上で舞台装置をざっくり立体化して、全体のレイアウトや高さ、配置のバランスを検討します。

青木:例えば今回のスノードームのような空間を作りたい時には、アーチの高さや配置を少しずつ変えながら、どのバランスが最も効果的に見えるのかを確認していきます。最終的な検討は模型で行いますが、いきなり模型を作り始めるより、3Dである程度検証してから取りかかる方が、大きく外すことがありません。色のトーンや配色なども3Dで確認し、その後、模型で仕上げていくことが多いですね。

青木:デザインが固まった後は、実際に大道具を製作する方に渡す、書き抜き図面を作成します。舞台装置をパーツごとに分け、寸法や高さ、素材、仕上げなどを記載した、いわば設計図です。それをもとに大道具の方と打ち合わせをして、製作方法や見積もりを詰めていきます。

青木:また、仕上げの詳細はPhotoshopで仕上げて指定することが多いのですが、その際もVectorworksから正確な縮尺の図面を出力して使います。
さらに模型や実物のパーツをレーザーカッターで切り出す際には、Vectorworksのアウトラインデータをそのまま活用できます。検証のための図面から3D、模型、そして実際の大道具製作まで、正確な縮尺のデータを一貫して使えることは、実務の中でとても便利だと感じています。

島田さんは、現在卒業制作として準備を進めているオムニバス作品、童話「雪女」を題材にした創作日本舞踊と、「華々焔炎」の美術を紹介してくれた。
島田:1年生の頃は、劇場の写真に手描きやタブレットで舞台装置を描き込んでいましたが、その後Vectorworksの3Dを学び、現在は3D上で装置の位置や大きさを検討したり、人物を配置してスケール感を確認したりしながら、プレゼンテーション資料を作っています。

島田:「雪女」では、「雪女が人間の世界に入り、1人の男と出会い、人間として生活し、最後には再び雪女へ戻っていく」という物語の変化を、空間そのものの変化として表現することを大切にしました。
舞台にはひとつの家の構図を常にイメージし、雪女と男が出会い、共に生活する場所として設定しています。場面が進むにつれて屋根の高さや装置の位置を変化させることで、雪女と人間の世界との距離感や、雪女の心情の変化を表現しています。


島田:「華々焔炎」では、台本にあった「踊る3人が火種」という言葉から発想してデザインしました。舞台上に炎そのものをつくるのではなく、3人が踊ることで、火がぱちぱちと燃え広がっていくような空間を目指しています。
中央に配置した扇子は、一列に並べるのではなく、3層に重ねて配置しています。これは、4年間の経験の積み重ねや、1人では作ることのできない時間や経験の厚み、そして同期とのつながりを表現したものです。
また、後半では照明によって扇子の影を背景へ大きく映し出し、それぞれ独立していたものが重なり合うことで、ひとつの花や炎のように見える演出を考えました。個人が積み重ねてきた経験や存在が互いに重なり、ひとつの大きなエネルギーになっていくことを表現しています。

島田:そのために照明の位置と装置、作りたい影の大きさを断面図上で検証し、必要な装置の高さを検討しました。自分の考えを整理するためだけでなく、色や文字の大きさも整え、照明スタッフに意図が伝えられる資料にしています。頭の中にあるイメージを具体的に検証し、ほかのスタッフと共有するためにVectorworksを活用しています。

青木:本来、プロの実際の制作現場であれば、Vectorworksの「光源」機能を設定してリアルな光と影のレンダリングを行ったり、「ウォークスルー」機能を用いて客席視点からの見え方を立体的にシミュレーション・検証したりしています。
しかし学生の場合、各自が所有するノートPCのスペック制限もあり、大学側としても重い3Dレンダリングや光源計算の多用は推奨していません。そこで島田さんは、図面上で照明の位置と装置、作りたい影の輪郭を直線で結ぶ作図アプローチを取っていました。限られたデジタル環境の中でも、発想と作図の工夫によって精度の高い空間検証を行っています。
島田:最初は、デザインレイヤとシートレイヤの概念が理解できなかったのですが、レイヤの使い分けをすることで効率よく作業できることに気づき、Vectorworks University※のトレーニング動画を視聴して使い分け方を学びました。それ以外でも、気になった機能やうまく使えないと感じる機能はVectorworks Universityの動画を参考にしています。
※Vectorworks University:Vectorworksの使い方を学ぶためのオンライン学習プラットフォームです。初心者向けのスタートガイドから、3Dモデリング、建築・インテリア・エンタテインメントなどの業界別専門知識まで幅広く網羅しています。
図面や3D、模型など、さまざまなツールを活用して舞台を作り上げているおふたりに、改めてそれぞれの良さについてうかがった。
島田:私はVectorworksの機能で特に感動したのは、「回転体コマンド」です。花瓶のような曲線を持つ小道具を作る時、断面図を描いて回転させるだけで3Dモデルができるのでよく使っています。
「回転体コマンド」を知る前は、何個も円柱を描いて3D上で重ねてそれらしく見えるようにしていたので、1個のデータを作るのに2~3時間くらいかかってしまっていました。自分が作りたい形の断面図を描いて「回転体コマンド」を使うことで一瞬で3Dにできるので、もっと早く知りたかったです……(笑)。また、そのVectorworksのデータを活用して、3Dプリンタで模型用の椅子や机などの小道具を製作できるのも便利です。

青木:図面を描くことが好きになったのは、Vectorworksのおかげと言ってもいいくらい、作業そのものを楽しんでいます。特に魅力を感じるのは、直感的に描けるところ。ほかのCADソフトと比べても、Illustratorのように感覚的に操作できる部分があり、イマジネーションを形にする舞台美術と相性がいいと感じます。
また、最近増えているZoomでの打ち合わせでは、画面共有しながら3Dデータを見せ、舞台空間や俳優の動きを説明することもあります。言葉だけでは伝わりにくいイメージを、その場で視覚的に共有できるのも大きな魅力です。
一方で、舞台美術は模型を大事にしています。稽古場でスタッフ全員が模型を囲み、その場で手を動かしながら考えられたり、照明を当てて影の出方を試したり、演出家が人形を動かしながら俳優の配置を考えたりと、専門を問わず直感的に扱える「共通言語」になり得る点が良いんだと思います。

青木:3Dプリンタで何でも作れるようになりましたが、現場で小道具が壊れたり、急な変更が出た時、自分の手で修理したり、その場で木材を加工して作り出したりする能力も必要です。即応力を求められる現場ではデジタルを使いこなしつつ、物理的な素材と対話できる「手」を持つこと、その両輪が不可欠ですね。
最後に、青木先生と島田さんに、今後、舞台美術を学びたい方へのメッセージをうかがった。
島田:舞台美術を学べば学ぶほど好きになっています。学ぶ中で「もっとスキルを磨きたい」と新しい目標が生まれることも魅力です。少しでも興味がある方には、ぜひ学んでほしいと思います。
卒業後は、ライブイベントを手がける会社に就職が決まっています。大学でVectorworksを学んだことで、就職活動でもポートフォリオを評価していただき、将来の選択肢も広がりました。でも、あくまでツールです。大切なのはその先にある空間で、いかに観客の心を動かすか。社会に出ても、デジタルとアナログの両方を大切にしながら、誰も見たことがない景色を作っていきたいです。

青木:そうですね、舞台美術は本当に面白い分野の仕事です。古代ローマの作品を手がけたその次は昭和の話だったり、未来の世界を想像した話だったりと、舞台となる時代設定、地理的背景など多種多様な知識や教養が必要になります。仕事を通してさまざまな世界に出会い、自分自身も成長し続けられることが魅力ですね。
また、舞台美術には、上演が終われば消えてしまう儚さがあります。だからこそ、ひとつの作品を作り終えたら、また次の新しい世界へ向かっていける。生みの苦しみや時間に追われる大変さもありますが、それ以上にたくさんの作品との出会いが楽しいです。一生かけて学び続けられる仕事なので、舞台美術を目指す人がもっと増えたら嬉しいですね。
文:Naomi 撮影:井手勇貴 取材・編集:岩渕真理子(JDN)
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