
リスキリングという言葉が定着してきたいま、改めて「学ぶこと」の大切さとは何か? インタビューシリーズ「学びをひらく」では、その問いに向き合うべく、“学びの場”をひらく人々を訪ねます。
今回は、女性向けキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」創業者の福田恵里さん。Webデザインやマーケティング、ライティング、動画編集、生成AIなどを定額制で学べるSHElikesは、スキル習得だけでなく、学び続け、仕事につなげるための「環境」も支えています。
「学びは、自分の人生を切りひらく一番の武器になる」。そう話す福田さんにSHElikesを立ち上げた思いや、学び続けるための環境づくりについて聞きました。
――まず、SHElikesを立ち上げたきっかけを教えてください。
もともと、スクールをやりたいとか、教育事業をやりたいと思っていたわけでは全然ないんです。きっかけは学生時代にサンフランシスコへ留学し、パソコン1台でアプリをつくる起業家の方に出会ったことでした。そこで、プログラミングとWebデザインを学べば自分でもアイデアを形にできると知り、学び始めました。
ただ、実際にスクールや勉強会に通ってみると、あまりにも女性の受講者が少なかったんです。当時、国内の女性エンジニアの割合は7%くらい。これからインターネットの時代が来ると言われているのに、女性たちがそこに参画できていないことに、すごく機会損失を感じました。
パソコンが苦手だったり、難しいという先入観を持っていたりする人でも、テクノロジーを武器に働けるようになれば結婚しても子育てをしても自分のキャリアが閉ざされない。そう思って、「日本で一番かわいいWebスクールをつくろう」と考えたのが始まりです。

――福田さんご自身にとっても、デザインを学んだことは大きな転機だったのでしょうか。
デザインのスキルを学んで、人生が大きく変わったと思っています。もともと私は、自分は何も持っていないと思い込んでいて、自己肯定感も低かったんです。でも、学生時代に時給800円でアルバイトをしていた私が、Webデザインのスキルを身につけてWebサイトをひとつ作ったら30万円をいただけた。自分の1時間は800円だと思っていたけれど、スキルによって何十倍にも上げられるんだ、スキルが自分の価値を上げてくれるんだと実感しました。
起業したときも、WebサイトやSNS、サービスサイトを外注せず自分の手で形にできました。あらゆる人生の局面で、デザインスキルが自分の人生を切りひらいてくれた感覚があります。
デザインすること自体、徹夜で作業してしまうくらい大好きになりました。グラフィックやWebデザインから学び初めて、最初はアイデアが具現化されていくプロセスにワクワクしていたのですが、だんだん広義のデザインについても知るようになって。UXデザインではユーザーインサイトの発掘や戦略策定もデザインに含まれることを学んだ時に、教養と同じレベルで、どんなビジネスマンでも学ぶべきものだと思うようになったんです。
デザインシンキングの考え方を身に付けて、さらにグラフィックで表現するスキルも身につけておけるとなおいい。デザインは拡張性のあるスキルだと感じ、そこにも面白みを感じています。
――SHElikesでは、現在どのようなスキルを学ぶことができますか?
SHElikesは、Webデザイン、SNSマーケティング、ライティング、動画編集、生成AIなどを学び、仕事につなげるところまで一貫してサポートしています。
特徴的なのは、複数の職種やスキルを掛け合わせて学ぶ方が多いことです。私たちはそういう人たちを「マルチクリエイター」と呼んでいます。ひとつのスキルだけではなく、掛け算によって自分らしい働き方をつくっていくイメージです。

――最初から「これを学ぶ」と決めきれない人も多いのではないでしょうか。
多いと思います。私自身も、最初から「デザインでいく」と決められていたわけではありません。いろいろなスクールを転々としましたし、30万円払ったのにテキストを買っただけで、その後一度も行かなかったこともあります(笑)。
だから、手段に固執する必要はないと思っています。大事なのは、自分がどうありたいか。その“ビーイング”を叶えるための手段は、100人いれば100通りあっていい。SHElikesでも、いろいろなスキルをつまみ食いしながら、自分に合うものを見つけられるようにしています。コーチングやキャリアカウンセリングで「なりたい像」から何を学べばいいかを一緒に考え、仕事につなげる段階では実践に近い課題にも取り組みます。
――大人が学び直しを続けるうえでは、何が大切だと感じていますか?
やっぱり、好きじゃないと続かないと思っています。「今この職種が稼げるらしい」といった機能的な価値だけでは、仕事をしながら学ぶモチベーションはなかなか続かない。だからこそ、自分の好きなことや興味関心と結びつけることが大切だと思います。
――SHElikesの特徴として、コミュニティの存在も大きいと感じます。
SHElikesは熱狂的なコミュニティがあることが大きな特徴だと思っています。一般的なオンラインサロンやコミュニティにはカリスマ的な人物がいて、その人の有益なTipsをみんなが取りに行くというピラミッド型になりやすい。でもSHElikesは、「球体型」のコミュニティでありたいと考えています。

真ん中にあるのはカリスマではなく、ビジョンです。「自分らしい生き方をする」「自分にしかない価値を発揮する」。そのビジョンに共感した人が集まっているので、上も下もありません。新しく入ってきた人も、長くいる人も、それぞれの立場でギブできることがある。お互いがギバーになって、コミュニティに貢献していく感覚です。
――受講生自身がコミュニティをつくる側に回ることもあるのでしょうか。
コミュニティマネージャーをしてくれているのは、実は受講生の方々なんです。自分で手を挙げた受講生がリーダーになり、イベントを企画したり、運営を手伝うメンバーを集めたりする。デザインを学んでいる人が集客バナーをつくり、ライティングを学んでいる人がイベント記事を書くこともあります。
そうやって役割分担をしながら、ひとつのプロジェクトを作り上げていく。受動的に講義を聞くだけではなく、自分で動く。学びながら小さな実践が生まれていくんです。
――受講生の変化で、印象に残っているエピソードはありますか?
毎年開催している「SHE AWARDS」では、SHElikesで学んだことで人生が変わった受講生たちから自身のストーリーを募集し、表彰を行っています。たとえば、あきさんという受講生がいます。パート先でカラスに荒らされたゴミ捨て場を片付けながら、「私、何しているんだろう」と涙が溢れてきたそうです。そこから「絶対に自分の人生を変える」と決意してSHElikesに来てくれました。デザインやマーケティング、カメラなどを学び、今では人気アイドルの撮影もこなすプロのカメラマンとして活躍されています。
最初は「私なんか」と言う方が多いんです。でもスキルが身についたり、誰かに認められたり。そういう経験を重ねていくうちに、スキルや年収だけでなく、その人に自信や笑顔が戻っていく。マインドが変わっていく。そういう変化を見る瞬間が一番うれしいですね。

――その変化を支えているものは何なのでしょうか。
私たちは「自己効力感」を上げることをすごく大事にしています。「私ならできる」という感覚のことです。それを育てるには、自分自身の成功体験、似た人が成功している姿を見る代理体験、そしてまわりからかけられる言葉が必要です。SHElikesのコミュニティでは、「私なんかは禁止」「夢を否定しない」という約束を大切にしています。挑戦したいと言ったときに、「いいね」「できると思う」と、自分以上に自分の可能性を信じた言葉をかけてもらえる。その積み重ねが、「私ならできるかも」という感覚につながっていきます。
――学び続けるために、福田さんご自身が意識していることはありますか?
私は、本当にものすごく面倒くさがりなんです(笑)。怠惰な人間なので、意志だけでは学び続けられないと思っていて。モチベーションには鮮度があるので、意志は1日、2日でなくなってしまう。「頑張りたい」「これからデザイナーになろう」と思っても、3日くらい経つと「ちょっとNetflix見るかな」って(笑)。
だから、環境を作ることがすごく大事だと思っています。たとえばスクールに入る、毎週決まった時間に学ぶ、同じ目標を持つ人たちがいる場所に身を置く。自分の意志だけで頑張ろうとするのではなく、自然と学び続けられる状態を先に作ってしまうんです。

――デザイナーやクリエイターにとって、AIなど新しいスキルを学ぶことの重要性についてはどう考えていますか?
今の時代、AIを知らない、学ばないということが知らない間に自分の将来の仕事や機会を奪うことにもなりかねません。大事なのは、新しい時代の変化にいち早く乗り、乗りこなしていくマインドです。
仕事の一部が自動化される中で、私たちはAIを使いこなす側に回らなければいけない。そのためには、デザイナーとしての在り方や価値を自分自身でアップデートしていく必要があります。一方で、AIでは代替できない人間知性も高めていきたい。私自身、脳科学に基づいて身体パフォーマンスを鍛える私塾に参加するなど、AIを使いこなしながら人間ならではのスキルも高めています。その両方を学んでいく必要があるのだと思います。
――最後に、今後、SHElikesとして広げていきたいことを教えてください。
今、力を入れているのは地方展開です。オンライン受講なので全国に受講生がいますが、どうしても都市部の方が多い。私は地方出身で、地方であればあるほど価値観や人脈が固定化されやすく、賃金格差や機会格差もあると感じてきました。だからこそ、地方の女性にこそSHElikesを届けたいと思っています。
学びは、自分の人生を切りひらく一番の武器になると思っています。SHElikesで学べる職種は基本的にリモートでも働けるものが多い。地方にいてもキャリアが閉ざされない未来をつくっていきたいです。好奇心を持って新しい世界を知ることにワクワクできれば、学びやスキルの習得はもっと楽しくなるはずです。
■SHElikes
コース情報など詳細は公式サイトを参照ください。

文:高野瞳 写真:小野奈那子 取材・編集:萩原あとり(JDN)