問いかけたいのは、私たちが動物に向けるまなざしに潜む「固定観念」の危うさだ。私たちは、無意識のうちに犬に対して理想を押しつけているのかもしれない。メディアに溢れる愛らしい容姿、完璧に躾けられた振る舞い、健やかな身体。しかし、生命の実像はもっと泥臭く、そして多様だ。人間と同じように、犬にも個別の性格があり、老いがあり、障害という個性が宿ることもある。
「普通」の枠から外れた途端、掌を返すように命が放棄される現実を、私は見過ごすことができない。トリマーである母の傍らで、私は多くの命の光と影を見てきた。視力を失った犬が、見えないからこそ五感を研ぎ澄ませ、飼い主へと真っ直ぐに信頼を寄せる姿。そこには、健常という言葉では片付けられない、静かで強靭な生命の美学があった。
動物は言葉を持たない。喜びや哀しみを、人間のような表情で語ることもない。それでも、同じ時間を丁寧に編み込んでいけば、彼らがどれほど深い情愛を私たちに注いでいるか、その体温を通して伝わってくるはずである。
本作品集が、表面的な美しさの奥にある、彼らの剥き出しの本質を愛するための道標となることを。