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共にひとつの舞台を作り上げる-日芸演劇学科で学ぶ図面から広がる舞台美術(1)

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姉妹サイト「JDN」で連載している「Vectorworks活用事例」は、さまざまな分野で設計に携わる方々にとって、空間を作る上で欠かせないツール「Vectorworks」を、どのように利用しているのかを紹介してきた。

今回は、建築や空間デザインを学ぶ学生と、その教育に携わる教職員や教育機関向けに提供している「教育支援ライセンス」をピックアップ。同ライセンスを活用する、日本大学 芸術学部 演劇学科にインタビューを行った。

演劇やミュージカル、音楽ライブなど、あらゆるパフォーミングアーツの現場でも活用されているVectorworksについて、現場のプロを志す学生たちは、日々どのように学んでいるのか。芸術学部演劇学科専任講師で主に「デザイン技術コース」を担当する舞台美術家の青木拓也先生と、同コース美術専攻4年の島田理生さんに、大学での授業の様子や、実際に制作・提案したデザインプランなどについてうかがった。

舞台美術を領域横断的に学べる環境

日本大学芸術学部演劇学科は、「舞台構想(劇作、演出、企画制作)」、「演技舞踊(演技、舞踊)」、「デザイン技術(美術、照明、衣裳、音響、舞台監督)」の3コース10専攻で構成されている。第一線で活躍する講師たちの指導のもと、理論と実践の両軸で舞台美術を学べる学科だ。

また、演劇学科がある東京・練馬の江古田キャンパスには、さまざまな上演に対応する2つのホールと、大道具や衣裳、演出効果の実験も行える大規模な創作工房など、充実した設備と環境が整っている。写真や映画、美術、音楽、文芸、放送、デザインといった他学科の学生との交流やコラボレーションを通して、学科を横断した幅広い学びを得られる点も大きな特徴だ。

日本大学芸術学部 江古田キャンパス
日本大学芸術学部 江古田キャンパス
学生の創作を支える工房「workshopA」

毎年、多方面で活躍する卒業生を輩出している同学科。青木先生もまさにそのひとりで、約20年前、演劇学科の「装置コース(当時)」を卒業。舞台美術の世界では師匠に付く人が多い中で、卒業後からフリーランスの舞台美術家・デザイナーとして活動する道を選び、さまざまな作品の舞台美術デザインを手がけている。

青木拓也先生(以下、青木):数年前、演劇学科から声をかけてもらい、最初の1年は非常勤講師として舞台美術デザインや、自分で使い続けてきたVectorworksを教える授業を受け持ちました。その翌年、専任教員として着任しましたが、舞台美術家としての仕事も並行して続けていて、現場での経験を学生たちに伝えつつ指導しています。

青木拓也 日本大学芸術学部演劇学科専任講師。日本大学芸術学部演劇学科卒。在学時よりフリーランスの舞台美術家として活動を始める。演劇・コンテンポラリーダンスなど、ジャンルを限定せずに劇的な空間を演出することを本意とする

青木:演劇学科では、理論と実践を並行して学びながら、それぞれ専攻に分かれて専門を深めつつ、ほかの専攻の内容も一緒に学んでいきます。演劇はみんなで一緒に作品を作る分野なので、自分の専門だけを知るのではなく、ほかの専門が何をしているのかも学べるカリキュラムにしています。

4年次の卒業制作では、すべての専攻の学生が集まってひとつの作品を学生の力だけで作ります。そのため、2年次から実際に演劇創作を行う授業「シアタープロダクション」が始まります。この授業を2年、3年と重ねることで卒業制作に繋げていきます。

舞台芸術制作の現場でメインツールとして使われるVectorworks

現在、青木先生が担当する「デザイン技術コース」では、「劇場技術基礎」という授業が必修科目だ。演劇や舞台作品を作るために必要な技術や知識のベースを身につける内容で、Vectorworksの基礎的な操作方法を教える時間もある。

青木:授業ではまず基本的な2D作図から始め、平面図や断面図の見方、シンボルの配置など、舞台制作に関わるどのセクションでも必要になる操作を教えています。また、さまざまな劇場の形式や名称、舞台の上空にあるバトン(照明器具や大道具、背景などを吊るための金属製のパイプ)の昇降方法、平台や箱馬などの備品を使った舞台の組み方など、実際の現場に即した内容を実践的に学びます。

授業風景

青木:実際の創作の過程では多くの場合、最初に図面を描くのが舞台美術家です。台本や演出プランをもとに劇空間をデザインし、演出家と方向性を共有した上で、その図面を大道具や照明、音響をはじめとする各スタッフに渡します。舞台美術家が設計した物理的な空間をベースに、ほかのセクションも具体的な設計を始めるのです。

さらに、図面は稽古にとっても必要不可欠なものです。稽古場では、図面をもとに床へ実寸大のバミリ(位置指定のテープ)を貼り、出演者はその空間の中で初めて立ち位置や動線、身体的な表現を検証できるようになります。そのため、舞台美術家の図面が上がらなければ、技術スタッフの設計だけでなく、出演者の立ち稽古や演劇制作全体のスケジュールそのものがストップしてしまいます。

稽古の様子。床にしるしとして付けられているのがバミリ

青木:舞台美術家は単に舞台セットのデザインだけをするのではなく、演劇創作全体の起点となる重要なポジションです。そして、同じように図面もとても重要になります。スタッフとして演劇創作に関わりたい学生は、ある程度図面が読めてVectorworksを扱えるように、専攻を問わず「劇場技術基礎」の授業を履修しています。

2年次以降は、それぞれの専攻・専門に応じたVectorworksの使い方に発展していきます。美術専攻の学生は、自分のデザインを図面に起こし、照明専攻の学生は照明の仕込図を描くなど、実際の舞台制作に近い形で活用していきます。

何のための図面なのか?現場で実感する大事なこと

舞台美術やデザインについては、多くの学生が大学入学後に初めて専門的に学ぶ。島田さんも大学に入学して初めてVectorworksを使ったとのこと。

島田理生さん(以下、島田):私は高校の時から美術コースに通っていました。進路を考える中で「どのデザインの道に進むか」と悩んだ際、もともとライブやイベント、ミュージカルなどを観に行くのが好きだったこともあり、舞台の空間デザインに興味を持って日本大学に入学しました。Vectorworksを初めて使った時は、たくさん並んだアイコンの意味や機能、配置を覚えるのが大変でした。

島田理生 日本大学芸術学部演劇学科デザイン技術コース4年生

青木:授業ではまず、Vectorworksをひと通り使えるようになるための基礎を教えますが、その先は実際に使いながら、「こんな機能があったんだ」「こうすればもっと便利になる」と自分自身で発見し、学んでいくことが大切だと考えています。

「これを作りたい」というひとつのゴールにたどり着くまで、本当に多様な作図方法があります。目的によって適した方法も違いますし、人それぞれの手癖もあるので、私が教える方法だけが正解ではないことを伝えています。それぞれが自分に合ったやり方を見つけてほしいと思っています。

島田:私の中で特に印象に残っている授業は、2年次前期の上演実習です。学内の中ホールで上演される作品で、初めて舞台美術をデザインし、立体図や断面図を使ってプレゼンテーションしました。それまでは課題として図面を描いていましたが、実際に図面を人に見せ、理解してもらえるように説明する経験を通して、「他の人にも伝わる図面を描かなければ」と意識するようになりました。

2年次前期の上演実習で島田さんが作成した製作図面。細かく指示も明記されている

青木:そうですね。先ほど話したように、舞台美術家の図面が上がらなければ、すべての工程がストップしてしまうので、「図面は何のために描くのか」の視点を大事にするように伝えています。図面は自分が眺めるためではなく、舞台制作に関わるさまざまなセクションの仲間たちに、情報を伝えるためのものです。「誰に渡す図面なのか」「その人にとって必要な情報は何か」を考えて準備することが大切です。そうした図面を介したコミュニケーションについても、意識して伝えるようにしています。

情報を共有し、共にひとつの舞台を作り上げていく

では、舞台美術の制作現場では、どのようにVectorworksを活用しているのか。青木先生が長らくデザインを担当している、人気ミュージカルシリーズ『ヘタリア』の2025年公演についてうかがった。原作の『ヘタリア World☆Stars』は、「少年ジャンプ+」(集英社)で連載され、シリーズ累計90万部を突破した人気コミック作品だ。

青木:まず演出家らと最初に打ち合わせをする際、手描きのスケッチで舞台のイメージを提案します。以前はパースもすべて手で描いていましたが、現在はVectorworksで劇場の3Dモデルを作り、舞台の大まかな形を配置して画角を決めています。それをプリントアウトして、上から手描きで描き込みます。実際の劇場空間に即した正確なパースを短時間で作れるのでとても便利です。

あえてすべてを3D化せずに手描きの工程を残しているのは、手描きの線や描き込みが持つオリジナリティやアートとしての側面を大切にしているからです。舞台美術は効率性だけを追求するビジネスではなく、舞台表現という「アート」です。手描きの試行錯誤を通してアイデアや世界観を広げるプロセスこそが創作の根幹であり、デジタルによる正確な空間構造と、手描きの持つ温かみや独創性が融合することで、演出家やスタッフへより魅力的なプレゼンテーションが可能になると思います。

青木先生が制作した初期のアイデアスケッチ

青木:デザインと並行して、平面図を作成します。ツアー公演の場合は、各劇場ごとに舞台の広さやバトンの位置などが異なるため、同じデザインであっても詳細を調整する必要があります。そのため、各劇場ごとに図面を作成します。

各座席から舞台へのサイトラインを引くことで「この席からどこまで見えるのか」を確認できます。それを踏まえてプロデューサーと相談し、チケット販売しない座席を決めることもありますし、作品の重要な場面がきちんと見えるのか、舞台装置によって視界が遮られないかを図面上で検証します。

『ヘタリア』の平面図

青木:また、断面図でも客席から舞台がどのように見えるのか検証します。照明のフォローピン(出演者を追いかけて明るく照らすための専用照明器具)が狙った位置まで届くか、客席に向けて照明を当てる場合にはどの高さからなら2階席まで光が届くかなど、高さに関する検証には断面図が欠かせません。

断面図

青木:一方で、人間が実際に見る景色を図面だけで把握するのは難しいので、実際の体感に近づけるために、模型の客席からスマートフォンで舞台の見え方をチェックするなど、試行錯誤して見え方の確認をしています。また演出家や照明、さまざまなセクションに説明する際は、模型やVectorworksの3Dモデルを使って「この席からはこう見えます」と視覚的に説明することもあります。