卒業制作「鏡像の内側」で表現したのは薄皮一枚先の美しいだけではない世界です。人の内側に宿り続ける強い情念(sentiment)を理性的に捉え、自分自身の感情のリアリティーを大切にしながら幻想(虚像)とリアル(内側)が共存する世界を制作しました。卒業制作の大作である『神のいない部屋』は、他者から侵害されない内側の世界を描いています。自分の部屋というのは特別で極めてプライベートな空間です。私にとっては神の目すら届かない、心が帰る場所として機能しています。世界と自分の心地いい隔たりに守られるように、鬱屈とした感情や制作の軸となるあらゆる思想を1人で整理する時間を大事にしたいと思えるのは、部屋という秘密裏な空間があってこそだと考えているのです。まなうらの赤色がくすぐり起こす嫌な記憶も本当は忘れるのが惜しかったり、飲まずに黒澄んだ紅茶の静けさに夜の怖さを感じたり、微かな光が灯るその下で背中を丸めて眠る夜が誰にでもあること。これら総て、神も目を逸らす事情なのです。「神のいない部屋」は22歳の私の誰にも言わない事情そのものなのです。